娘よ、君を愛している

妊活のこととか、娘のこととか、時間がある時に気が向いたら書きます。

妊娠が発覚した時の話

7回目の人工授精を終え、私の心はとても軽くなっていた。
今回もダメだろうけど、しばらくあの痛みとはおさらばだし、クリニックに通うこともない。
父のお見舞いにもっと行けるし、そのことだけ考えていればいい。
人工授精後、いつものように先生からもらった紙には「9月22日までに生理が来なければ妊娠」と書かれていて、いつもならその日が来るまでドキドキしながら過ごしたのだけど、今回は全くドキドキすることもなく、なんならその日付を忘れるくらい、気にも留めず毎日を過ごしていた。
生理が来たらどうしよう…。とビクビクしながら過ごさずにいられる日々はこんなにもノンストレスだったのか、と、不妊治療から解放された当時の私は思っていた。

そして気が付けば9月21日。
あれ、生理まだ来てないな。と、ここで漸く気が付いた。
そういえば明日まで生理が来なかったら妊娠なんだっけ、まー今夜までには来るな~多分。そう思っていた。
だって下腹部がなんだかじんじん痛むし。これは「生理もうすぐ来るで」の合図だから!遅くとも今夜生理が来るはず。
妊娠している可能性があるかも、なんて微塵も頭になかった。
何にも期待してなかったし、今までだったらここでドキドキが最高潮に達していただろうけど、その時の私は驚くほど冷静だった。
ので、その日は中学の同級生とのプチ同窓会繰り出した。
不妊治療を始めてからお酒も飲まなくなったし、久しぶりに友達と会えたこともあり、その日はめっちゃめちゃ飲みまくった。

 

そして、翌日。

9月22日。

この日は入院中の父が一時帰宅を許可された日だったので、母と私と旦那で午前中病院に父を迎えに行くことになっていた。
ちなみに、容態が良くなったから帰宅を許されたわけではない。
むしろその逆で、もういつまでもつかわからないから、今のうちに家族水入らずの時間を過ごした方がいいのではという先生の計らいだった。
家に帰れるのは一日だけで、翌日には父はまた病院に戻る。
父は、もう何カ月も食べ物を口にしていない。
食べたい気持ちはあるのだが、食べてもすぐにもどしてしまう。
栄養は点滴からしかとっていない。
父の体重は、痩せていると周りから言われる私の体重を下回っていた。
もう、自力で歩くこともできない身体になってしまっていたのである。

そんな父を迎えに病院に行かなければいけないので、その日は早起きだった。
あれ、そういえば昨日、結局生理来なかったな。
パンツ下したら血が着いてたらどうしよ。嫌だな~。
なんて思いながらトイレに行った。

が、下着に血が着いていることはなかった。
あれ…?と思いながら、先生に渡された紙をもう一度確認。

「9月22日までに生理が来なければ妊娠」

「9月22日」

 

9月22日!!!!??

今日じゃん!!!!?????

 

朝から一気に心拍数が跳ねあがった。

いや、でも、待て待て。
あと一時間したら来るかもしれない。
だって、妊娠したなんて簡単に信じられない。
でもとりあえず、と、寝ている旦那の耳元で「妊娠したかもしれん」と囁いておいた。
旦那はその一言で起きたのか、はたまた寝たままだったのかわからないが
「…ん!?」と一言。
とりあえず、妊娠の有無は検査薬でちゃんと確認するとして、父を迎えに行くべく病院へ向かった。

父を車いすに乗せ、私がそれを押す。
こんな日が来るなんて想像していなかった。
やせ細った背中はとても頼りなく、小さく見えた。
父の希望で、家に帰る前に床屋に寄ることになった。
デパートの中に入っている床屋だったので、母は食品の買い足しに、私はドラッグストアへ一目散。
すぐさま妊娠検査薬を購入し、実家に帰るまで待とうと思ったけど、我慢の限界だったのでそのままトイレに駆け込んで検査薬を使用した。
今までも、何度か検査薬を購入したことはあった。
不妊治療を始める前、たった一日生理が遅れただけで「もしかしたら妊娠したかも!」なんてドキドキしながら。
結果は勿論陰性だったけど。

でも、今回は違ってた。
判定枠にピンクの線が浮かび上がる。

 

結果は、陽性。
妊娠している。

 

それでもまだ信じられなくて、同封されてた説明書を何度も何度も読んだ。
どう見ても、結果は陽性。

私のお腹に、ついに赤ちゃんがやってきてくれたのである。
すぐさま旦那に報告した。
病院に行かないとね、と二人で話していると、父が散髪を終え床屋から出てきた。

実家へ向かう車内で、私は考えていた。
いつ両親に妊娠のことを言おうか。

本当なら、ちゃんと病院に行ってエコーで赤ちゃんを確認できてからの方がいい。
検査薬の結果が100%正しいとは言い切れないし。
でも、もたもたして、父に言えなかったらどうしよう。
そのことだけが気がかりだった。

そして車は実家に着いた。
父を車いすに乗せ、私が押す。
私と父、そして母でエレベーターに乗って実家のある階まで上っていく。
その時、勝手に、本当に自分の意志とは関係なく勝手に口が動いた。

「あのね、赤ちゃんができたみたい。」

何故ここで!?と自分でもびっくりした。
こんな狭いエレベーターの中で…。
でも勝手にぽろっと口から出てしまったのである。
それを聞いた母は「えぇ!?」とびっくりした顔をしていた。
そして、父は「やったー!!」と、両腕を高くあげたのだ。

 

あの時の父の嬉しそうな笑顔は、今でも忘れない。
「パパ、ずっとお祈りしてたんだ。○○に赤ちゃんが授かりますようにって。」
と、父は言った。

思い出すと今でも泣いてしまう。
私から不妊治療のことを聞いて以来、父は病院のベッドで、毎晩祈ってくれてたんだそうだ。
自分の病気を治してください、ではなく、私のことを。

 

後日、不妊治療で通っていたクリニックに旦那と一緒に向かった。
診察室に入るなり先生は「また来たってことはもしかして…?」と笑顔で言った。
エコーで子宮の中を見てみると、そこには小さな小さな卵のような粒が見えた。
私たちの赤ちゃんである。
「おめでとう。妊娠してます。」

この時を、どれだけ待ち望んでいただろうか。
何度も何度も夢に見た、ついに赤ちゃんが私のお腹にやってきてくれたのである。